The Beatles[Rubber Soul]

1991年中学生だった僕の家のリビングには何の変哲もないチェストが置かれていた。チェストには住所録や文房具やチラシの束なんかがつっこまれていたが、下から2段目の引き出しはぎっしり隙間無くカセットテープで埋め尽くされていた。父がレコードからこつこつダビングしたもので、物事を深く追求するタイプではないけど流行のものにとりあえず首をつっこむ性格の父のライブラリは60年~80年の洋楽を中心としたカセットが100本近くあった。片面50分にアルバム1枚収まっている。カセット1本では両面でアルバム2枚収録されているのだが、中にはセルジオ・メンデス・ブラジル'66とソニー・ロリンズ「サキソフォン・コロッサス」という異業種が同居しているようなものもあって、父の少々強引な性格がよくでている。

僕の周りは少しずつ流行の音楽に関心を示すようになり、男子にはB'zやBoowyなんかが流行っていた。それまで僕は音楽に関心はなかったけれど周りにあわせて音楽を聴いてみることにした。ただCDをレンタルするお金を持っていなかったのでテレビの歌番組をみていた。B'zなんかあんまり出てなくて出演しているミュージシャンはあまりピンとこなかった。仕方がないのでチェストのカセットテープに手を伸ばした。ライブラリのなかで多く目につくのが「ビートルズ」と「さだまさし」で、さだまさしは中学生は食わず嫌いで「かっこわるい」というイメージがあったのでビートルズを聴いてみることにした。

「ラバーソウル」の1曲目「Drive My Car」のイントロが鳴った瞬間「古くさっ!」と思った。エレキギターの音が何のエフェクトもかかっていないアンプを通した生の音に近いのだけど、そんな音を聞いたことなかったので古いと感じてしまった。父親の時代の音楽というイメージも古さを手伝ったのだろう。古さにニヤニヤしていたのだが、「ノルウェイの森」「You won't see me」「Nowhere man」と曲が進むにつれメロディの耳なじみやすさ、コーラスの美しさに気づき、「これ結構いいやん」と思った。

翌日学校で隣の席の気になる女の子に「おれ結構ビートルズ好きなんだ」みたいな背伸びした事を言ってみると、その子も親の影響でよく聴いているらしく、逆に「どのアルバムが好き?メンバーは誰推し?」みたいな事を質問されラバーソウルの曲しか答えられず恥ずかしい思いをした。もちろんその日から他のアルバムのテープも聴きあさった。

父は僕がビートルズを聴くようになった事がうれしかったようで、ビートルズの会話をよくするようになった。家族旅行の車の中では道中ずっとビートルズがかけてくれ(弟はふてくされていた)、僕の誕生日にはビートルズの全詩集を買ってくれた。「Lucy In the Sky with Diamond」の頭文字をみるとLSDで、覚せい剤のハイな気分を歌ったものだと教えてくれたけど覚せい剤って何?という歳ごろだったのでよくわからなかった。

しかしティーンエイジャーの趣向は変わりやすい。高校にあがると新しく出来た友達の影響でビートルズはあまり聴かなくなったし、自分のなかで中学んときにハマッた前時代のものとみなしていた。バンドを組んでキーボードをはじめたが、父はなんでビートルズのメンバーの担当楽器にしなかったんだと嘆いた。「ほっといてくれ」とうそぶいたが、僕もほんとはギターやベースがやりたかった。一緒にバンドを組んだメンバーがすでにギターを購入していたり経験者であったりでキーボードしか残っていなかったというのがほんとの所だ。でもキーボードにのめり込み、学業はおろそかになり、高校三年のとき父と激しく衝突することがあった。肩をがっくり落とした父となぐさめている母の光景は忘れることが出来ない。父との関係はそれから程なくして修復したが、家族の集まりとかで時折その話になると胸がちくっと痛くなる。

ビートルズがデビューした当時は、ジャズやクラシックなどの小難しい音楽から解放され、シンプルで荒削りだけど自由を前面に押し出しているロックが若者に受け世界中に爆発的に広まった。それから30年たった90年代はロックさえ古い音楽とみなされてしまうような、多彩な音楽ジャンルが生まれては消えていった時代だ。そんな時代でも中学生だった僕を魅了したビートルズの良さはなんだろう。シンプルなメロディ、美しいコーラス、覚えたての英語でも理解できるキャッチーな歌詞、バンドの成長にあわせて深みを増していく音楽性、ジョンレノンが親日家、など優れた点がたくさんある。世代を超え、また世代間で思い出を共有できる、普遍的な魅力を持ったバンドなんだろう。

K-DRAGON IS DIGGIN' THE DISK

Disc Review Remember Beautiful Days

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